パーソナリティ変化のプロセス

クライアント中心療法」の創始者、カール・ロジャーズは、1957年の論文「治療的パーソナリティ変化の必要十分条件」[*1]の中で、治療的(建設的)なパーソナリティ変化が起こるための条件を次のように定式化しています。

(以下の6条件の和訳は『ロジャーズ選集(上)[*2]より抜粋)


建設的なパーソナリティ変化が起こるためには、次のような諸条件が存在し、しばらくの期間存在し続けることが必要である。

  1. 2人の人が心理的な接触をもっていること。
  2. 第1の人(クライエントと呼ぶことにする)は、不一致の状態にあり、傷つきやすく、不安な状態にあること。
  3. 第2の人(セラピストと呼ぶことにする)は、その関係の中で一致しており、統合していること。
  4. セラピストは、クライエントに対して無条件の肯定的配慮を経験していること。
  5. セラピストは、クライエントの内的照合枠を共感的に理解しており、この経験をクライエントに伝えようと努めていること。
  6. セラピストの共感的理解と無条件の肯定的配慮が、最低限クライエントに伝わっていること。

他のいかなる条件も必要ではない。この六つの条件が存在し、それが一定の期間継続するならば、それで充分である。建設的なパーソナリティ変化のプロセスがそこに起こってくるであろう。


この6条件の中でも特に、3.4.5.は、「一致(純粋性)」「無条件の肯定的配慮」「共感的理解」と呼ばれ、セラピストの基本的態度(中核3条件)とされています。

ここで注目したいのは、パーソナリティ変化のプロセスが起こるためには、他のいかなる条件も必要ではないと言い切っているところです。精神医学の専門知識も、心理学的な検査や助言も、クライアントを深い洞察に導くための特種な技法も必要だとは述べられていません。

その後、カウンセリングのプロセス研究は随分進みましたが、クライアント中心療法の実践家の中には、この6条件は今なお「必要十分な」条件であって、これ以外の条件を付け加えることはクライアント中心療法の本質を損なうものであるとする「古典的な立場」(classical position)の人たちもいます[*3]。そして、かくいう私もこの古典的な立場にできるだけ近づきたいと思っているカウンセラーの一人なのです。

また、私がこのアプローチに拠って立つのなら、そのカウンセリングがどの程度効果的なものになるかは、私がセラピストの基本的態度である中核3条件をいかに高い水準で保ち続けることができるかどうかにかかっているといえます。

これはまさに「言うは易く行うは難し」ではありますが、日々その実践に情熱と真心を傾け続けることが、「クライアント中心療法によるカウンセリングこそ我が道」と定めた私のミッションだと思っています。

次に、上記の6条件が一定期間継続したときに起こるパーソナリティ変化のプロセスに関して、ロジャーズは、1959年の論文「クライエント・センタードの枠組みから発展したセラピー、パーソナリティ、人間関係の理論」[*4]の中で、このように示しています。

(以下のセラピー過程の和訳は『ロジャーズ選集(上)』[*2]より抜粋)


セラピー過程

前述の諸条件が存在しかつ持続したとき、以下のような方向の特徴をもったプロセスが展開しはじめる。

  1. クライエントは、言葉および(または)行動という手段によって、次第に自由に自分の感情を表現するようになる。
  2. クライエントが表現する感情は、次第に自己でないものよりも、自己に言及したものになる。
  3. クライエントは、自分の環境、他者、自己、自分の経験、そしてこれらのものの相互関係を含んだ自分の感情や知覚の対象を、次第に分化させ、弁別するようになる。(*後段の文章略)
  4. クライエントによって表現される感情は、次第に自分の経験のなかにあるものと、自己概念との間の不一致に言及したものになる。
  5. クライエントは、そのような不一致からくる脅威に気づいていく経験をするようになる。(*補足説明略)
  6. クライエントは、過去において気づくことを否定されてきたリ、歪められて気づいていた感情を、気づきのなかで十分に経験するようになる。
  7. クライエントの自己概念は、以前には気づくことを否定されてきたリ、歪められていた経験を同化し、包み入れながら再体制化される。
  8. このような自己構造の再体制化がつづいていくと、クライエントの自己概念は、ますます自分の経験と一致するようになる。(*後段の文章と補足説明略)
  9. クライエントは、脅威を感ずることなしに、セラピストの示す無条件の肯定的配慮をますます経験することができるようになる。
  10. クライエントは、ますます無条件の肯定的自己配慮を感ずるようになる。
  11. クライエントは、ますます自分自身を、評価の主体として経験するようになる。
  12. クライエントは、経験に対して、自分の価値の条件にもとづいて反応することが少なくなり、よりいっそう有機体的な価値づけの過程にもとづいて反応するようになる。 

ここで重要なのは、6つの条件が持続すれば、このプロセスは自ずと「展開しはじめる」ということです。カウンセラーがプロセスを「展開させていく」わけではありません。

もし、カウンセラーがプロセスを意図的に展開させたりしようとすれば、おそらくその瞬間に、カウンセラーにとって最も大切な基本的態度(中核3条件)のどれか、あるいはすべてが崩れてしまうことでしょう。

中核3条件である「一致(純粋性)」「無条件の肯定的配慮」「共感的理解」は、そのどれ一つとして自動巡航モードで気楽に行えるようなものはありません。カウンセラーは、いまこの瞬間にクライアントの中に生じている思考や感情のすべてを、クライアントと共に深く体験していくことに集中しなければなりません。

そのためには、カウンセラーは面接の時間中、常に「いまここ」に、リアルに在り続けることが必要です。私が電話やメールやオンラインではなく対面でのカウンセリングにこだわりたい理由もそこにあります。

そして、パーソナリティ変化のプロセスの核となるのは、自己概念と自分の経験がより一致するようになってくる「自己構造の再体制化」の過程(上記セラピー過程の6~8)ですから、それには時間もかかります。

このように、6つの必要十分条件のもと、面接と面接との間隔を程よく空けながら、ゆっくりと時間をかけて、相応の期間、カウンセリングを継続していくことで、自ずとこのプロセスが展開していくのです。


*1 文献:Rogers, C.R. (1957). The necessary and sufficient conditions of therapeutic personality change. Journal of consulting psychology, 21(2), 95-103.

*2 文献:Kirschenbaum, H. and Henderson, V.L. (1989). The carl rogers reader. Boston, MA: Mariner Books.(伊東博・村山正治監訳.2001.『H. カーシェンバウム、V. L. ヘンダーソン編 ロジャーズ選集(上)ーカウンセラーなら一度は読んでおきたい厳選33論文ー』誠信書房)

*3 文献:Sanders, P., Merry, T., Purton, C., Baker, N., Copper, M. and Worsley, R. (2004). The tribes of the person-centred nation: An introduction to the schools of therapy related to the person-centred approach. UK: PCCS Books.(近田輝行・三國牧子監訳、小野京子・神谷正光・酒井茂樹・清水幹夫・末武康弘訳.2007.『パーソンセンタード・アプローチの最前線-PCA諸派の目ざすもの』コスモス・ライブラリー)

*4 文献:Rogers, C.R. (1959). A theory of therapy, personality, and interpersonal relationships, as developed in the client-centered framework. In Koch, S. (Ed.), Psychology: A study of a science, 3, Formulations of the person and the social context. New York: McGraw-Hill, 184-256.